三宅裕司、紅ゆずる、横山由依インタビュー「熱海五郎一座Jazzy(じゃじぃ)なさくらは裏切りのハーモニー ~日米爆笑保障条約~」

東京喜劇にこだわり続ける三宅裕司を座長に、芝居による笑いをお届けしてきた「熱海五郎一座」。第7弾となる今回は、ゲストに元宝塚歌劇団星組トップスター・紅ゆずると、AKB48で2代目総監督を務めた横山由依を迎え、戦乱期のサンフランシスコで生きる人々の悲喜こもごもを描いていく。劇中では、実際にジャズの生演奏披露もあるという。昨年の公演中止を乗り越え、やっと上演を迎えられる三宅、紅、横山の3人に話を聞いた。

 

――2020年に予定されていたものが中止となり、1年を経て同じキャストで上演できることとなりました。まずは、今のお気持ちをお聞かせください。

三宅 最近になって舞台を観に行けるようになったんですけども、本当にみなさん苦労されていますね。笑いの多いお芝居の場合には、特に。満席の会場でドッと笑いが起こるからこそ、ウケた!と感じられる部分ってあると思うんです。ところが、客席は間隔をあけて座っていて、半分の人数になっていますから。本番前には喋るな、みたいな放送もあって、そういう緊張したお客さんの前で笑いをやるという、過酷な状況が続いています。それでも、役者は必死にやっているのが伝わってきますし、立ち上がって拍手したくなるような気持ちになります。我々がやるのは6月の公演なので、なんとか満席のお客さんの前でやりたいですね。もちろん対策はきちんとします。その上で、劇場でひとつの笑いを共有する、その世界をもう一度味わっていただきたいです。東京喜劇ですから、笑いがどんどん起これば起こるほど、役者もノってきますからね。

紅 1年前に上演するはずだったころは、私も宝塚歌劇を退団したばかり。今は1年経って、女性の装いもちょっとずつ慣れてきました(笑)。なので、今だったらまた違ったものを演じられる気がしています。服もどんなふうに着こなそうか、ワクワクしているんです。今の世の中、笑いが絶対に必要。満席で出来たら、これほど嬉しいことはありません。お客さんの反応が楽しみですし、客席と一緒につくっていく感覚が喜劇の醍醐味だと思っています。私はコメディが大好きなので、プロフェッショナルな方々とご一緒できるのをとっても楽しみにしています。

横山 昨年中止が決まって、すごくショックでした。ですが、(三宅)座長をはじめすごくたくさんの方のご協力があって、変わらぬメンバーで上演させていただけることが一番うれしいです。いろいろと難しい状況が続いている中、熱海五郎一座の舞台に立たせていただけることは、自分にとってとても幸せなことだと思っています。1年の時間が空いたことで、三宅さん率いる劇団スーパー・エキセントリック・シアターの舞台を2回、観に行くことができました。舞台は静かに観劇するものだと思っていた私にとって、あんなに笑える舞台は衝撃的でした。いろんな方からの刺激を受けて、新しい一面をみせることができたらと思います。

 

――三宅さんから見て、紅さん、横山さんの笑いのセンスについては、どうお考えですか?

三宅 2人ともお笑いが好きで、それがいろいろなところに出ていますね。紅さんは(宝塚歌劇時代のキャラクター)“紅子”を見ればもう、すぐにわかりますよね(笑)。要するに、演出家に言われてやっている笑いと、自分が好きでやっている笑いの差は大きいんです。横山さんも、もうひとり関西弁の女の子と2人で漫才をやっているのを見たんだけど、それも好きでやっているんだな、と思いました。笑いの好きな奴が集まって、楽しくてしょうがない雰囲気で稽古場でやったものを、舞台でやるから、お客さんにも伝わるんです。そういう意味では、2人は(稽古)初日で熱海五郎一座の一員になってしまうと思います(笑)。この一座にとっては、最高の2人ですよ! 稽古場から楽しみでしょうがないです。

 

――紅さん、横山さんにとって、お笑いやコメディはどういうものでしょうか

紅 私は宝塚でもコメディ作品がとっても好きでした。でも、タカラジェンヌはコメディに慣れていない部分もあるんです。やっぱり、美しく、カッコよく、エレガントに、というのを目指していますから。ですが、私はちょっと異質で(笑)、ここで笑わせよう!みたいなところがあったんです。それって結構、瞬発的な笑いだったんですよね。宝塚歌劇もアドリブを入れることはあるんですけど、お芝居の中では上演時間や舞台転換の関係上、事前に「ここにアドリブを入れます」とお伝えしておかなければならないんですね。紅子はまた別ですけど(笑)。だから、あまり好き勝手はできないんですが、千穐楽などはサプライズで、その場面の相手には伝えたりせずに、アドリブを入れていました。でも、熱海五郎一座は違うんです。ちゃんとお芝居の中に練り込んで、熟成させたものを見せていくんですね。いらないものは削ぎ落して、コレだ!というものを舞台に持っていくんです。そこに、大きな魅力を感じました。難しいことだとは思いますが、とっても興味があるんです。

横山 私がお笑い好きなのは、やっぱり関西出身だから。家ではお笑いの番組がついていて、身近に笑いがありましたね。AKB48に加入してからも、コントをやらせていただいたり、漫才をやってみたりと、いろいろな形で少しずつ、お笑いに関わることはありました。でもそれは、作家さんからいただいたものをやっている感覚。だから、笑っていただけたのも作家さんの力でしたね。しっかりと丁寧に作り込んだ笑いをお見せするのは、難しいこと。今までチャレンジしてこなかったことでもあります。すごく楽しみですし、いろいろな勉強をさせていただきたい。舞台なので日々変わっていくところもあると思います。それを楽しんでいきたいですね。

 

――紅さんは宝塚歌劇を退団されて、この1年で大きく変わったこともあったのでは?

紅 私は男役だったので、スカートを履くのにも「履くぞっ!」って勇気を必要としていたんです(笑)。でも今は、女性として、女優として、こういうスカートも履いてみたいな、こんなアクセサリーもしてみようかな、髪型はこうしてみようかな……と、自分に似合うものを求めたりするようになりました。女優として舞台に立つ姿もまったく想像がつかなかったですが、今は、こんなふうにできたらいいな、という想像ができるようになりました。そういう意味で、この1年は宝塚を卒業してからの、女性としてのメンタルトレーニングになりましたね。今までは体のラインも出さないようにしていましたが、肉体改造にも励んでいて、より女性らしいラインを見せられるようになってきました。というのも、私は背が大きいのでダボッとした洋服だと、すっごく大きくなっちゃうんですよ(笑)。なるべく体のラインを絞って、メリハリのある体型になっていければいいなと思っています。

三宅 そういう変化も、全部活かせるんだよね、喜劇は。1年前に書かれた台本だから、男役を卒業したばかりという本になっているけど、それを逆手に取って「1年経ったから、今は平気!」っていう台詞を付け加えればいいんだから(笑)

 

――紅さんと横山さんは、お互いにどういう印象を持っていますか?

横山 紅さんは、お会いする前はとにかくカッコいい!っていうイメージでした。まだまだしっかりとはお話は出来ていないんですけど、お会いしてみると、関西弁がところどころに出てきて、とってもユーモアもある方でした。あと、私のグループのメンバーに紅さんの大ファンがいるんです。私の出演が決まってから「紅さんを観に行きます!」って、言われました(笑)。稽古が始まったら、もっともっと仲良しになれたらと思います。

三宅 その子にはヨロシク言っておいて(笑)

紅 横山さんは、とてもかわいらしい方だな、と思っていたんですが、直接会うと私並みにすっごい関西弁やな、と(笑)。私は、宝塚歌劇の時も関西弁じゃない方がいいかな?と思ったんですが、結局宝塚の間も関西弁で、今も関西弁で話しています。関西弁で思いっきりお話した方が、気持ちもダイレクトに伝わる。横山さんが関西弁で「○○ですか?」って話しかけてくれるのが、すごくカワイイなと思っていますし、お稽古で仲良くなれるのが楽しみです。

 

――1年前に紅さんは、宝塚のトップスターとAKB総監督という、どちらも女性だけの団体を率いる立場だったということに共通点があるかも?とお話されていました。実際にお話しされてみて、いかがでした?

紅 もう、今まさにそれをお話したいと思っています(笑)。何十人もの人を「ほら、こっちだぞー」ってやるのってすごいパワーが必要だったんですよね。

三宅 そんな「ほら、こっちだぞー」って感じなの? なんか違う画が浮かぶ(笑)

紅 (笑)。いやでも、本当に個性的な面々を、同じ方向に何とか持っていくときに、どうやってやってた?っていうのは聞きたいですね。

横山 いやいや、私は……それよりも、今回は座長が、本当に個性的なメンバーを束ねてくださると思うので、稽古が本当に楽しみです。

紅 確かに、すごいメンバーですよね!

三宅 ほらでも、そこはみんなプロだから(笑)

 

――紅さん、横山さんから見た、三宅さんの印象は?

紅 すっごいダンディでびっくりました。

三宅 ハハ……まぁね?(笑)

紅 お会いする前は、どんな方なのか想像もつかなかったんです。会ってみたら、本当になんてダンディな方なんだろう、と思いました。もう、ほうぼうに「三宅さんってめっちゃダンディ」って言いふらしています。「大船に乗ったつもりで、乗ってくれたら何とかするよ」っていう、心強さ。自分がトップスターだった時に、こういうことが言えればよかったな、と思い知らされました。とても尊敬しています。横山さんに「な、カッコええな……」って話しかけながら、稽古を頑張りたいと思います。

横山 三宅さんは私が幼いころからずっと活躍されている方ですし、私も実際はどんな方なのかが想像できていなかったんです。お会いしてみたら、本当に優しく話しかけてくださって。最近、バンドの練習も始まっているので、私はドラムをやるんですが、その時もドラムスティックの持ち方や叩き方のコツをアドバイスしてくださったんです。優しくて、いろんなことを見ていらっしゃってて……記憶力もすごくいい。以前お話したことも、すごく覚えていてくださるんですよね。

三宅 でも、昨日何を食べたかは思い出せないんだよ(笑)

 

――(笑)。演奏シーンではバンド演奏があるそうですが、練習の手ごたえは?

三宅 去年の1月からやってたんだけど、半年弱でジャズをやるわけだから、多少、言い訳もできたかもしれないのに、1年経っちゃって(笑)。もう、言い訳も言えないですよ。

横山 先日、またバンド練習をさせていただいたんですけど、その時に前の練習映像を見たらちょうど1年前くらいでした。パワーアップしていないといけないな、という気持ちはあります。でも全員で合わせたことがまだないんですよ。どうなるんでしょうね? 昔やっていたドラムはポップスの叩き方だったんですけど、今回はジャズなので、全然感覚が違います。

三宅 ベースとピアノとドラムがしっかりしていないとね、紅さんが歌えなくなっちゃう(笑)。僕もウッドベースを買いましたよ。最初は10分も練習できなかったです。もう、手が痛くて。今はぜんぜん平気です。

紅 私は宝塚の時も生オケでやっていたんですけど、その時とはまったく違う感覚でしょうね。本当に楽しみにしています。あと、英語で歌うのも初めてなんです、実は。節々に英語、というのはあったんですけど、全部英語は今まで避けてました。

三宅 英語が関西弁になっちゃうから?

紅 いやいや(笑)。男役の表現として、日本語の方が自分としては消化できてカッコよく歌えると思っていたんです。だから、初挑戦です。

三宅 そうなのか……でもまぁ、うまく演奏ができなくてもいいように、ストーリーは作ってあります(笑)

 

――音楽と笑いに共通点はありますか?

三宅 リズムと笑いの間(ま)は共通ですね。音楽出身の方は間が良くて、ズッコケとかも最高の間でできるんですよ。そういう間が上手い人は、だいたい音楽をやっていた人っていう感覚はありますね。

 

――三宅さんにとって、笑いとはどういうもの?

三宅 笑いは人間にしかできないこと。動物は笑いませんし、AIにとっても難しい分野だと聞きます。人間にとって相当必要なことなんでしょうね、笑うことって。ここ最近の自粛期間を経験して、よりそう思います。笑うことって生きる活力になるし、免疫力も上げるんでしょうし。常になきゃいけないものですね。でも、演じる笑いというものが今はテレビから減ってきていると思うんです。それよりは、人の生きざまや芸人さんの面白さで番組が作られている。だからこそ、劇場で役者が演じるからこそ笑えるものを作っていかなければと思います。それに、1人で部屋で笑っているのと、好きな笑いを求めて劇場に1000人とかが集まって笑う興奮や感動は別物で、劇場でしか味わえないもの。その笑いを絶対になくしちゃいけないし、だからこそ劇場で笑いを続けたいです。

 

――東京喜劇のストーリーの作り方について、こだわっているところは?

三宅 やはり3時間近い芝居ですから、ストーリーで引っ張っている部分が無いと、いくら笑っていてもそれだけで3時間は引っ張れない。設定でまずはビックリさせておいて、笑っているうちにラストにもっていく、というのがいつもの作り方です。それには真面目なシーンが無いとダメだし、真面目なシーンの後は笑わせやすくなりますから。あと、音楽と歌の力も大きい。音楽が流れた瞬間に、劇場がひとつになるんです。そういう音楽の興奮や感動が、ストーリーの感動につながるように作ってあります。最後のシーンがうまく行くかどうかは、それまでのシーンの積み重ねですね。

 

――今回は戦争の混乱期にジャズを演奏する人々のお話とのことですが、このプロットにした理由は?

三宅 東京喜劇に定義があるわけではないですが、やはり東京喜劇では落差が大事。ジャズって、そりゃもうカッコいいじゃないですか。そこまでずーっとバカなことをやってきた連中が、生演奏でジャズをやって、ひとつのサウンドとしていいものができたら、相当カッコいいですよね。そこが相当カッコよければ、それまでに相当バカなこともできる。そしてバカであればあるほど、演奏がカッコ良くなるんです。戦後のジャズ、というテーマは非常に好きなテーマのひとつで、戦後は生きるにも緊張感のある時代です。その緊張感があるから、ギャグも作りやすい。緊張感がある中で人間は誰しも失敗するから、そこがギャグになるんです。そうやって、無理に笑わせようとしない設定をいつも探しています。今回の設定も、冒頭のはじまりからヒドいですよ(笑)

 

――それは楽しみです(笑)。1年を経て、パワーアップしたものを期待しています!

横山 台本も、1年前よりもギャグがメチャクチャ増えてるんです。台本を読んでいても笑ってしまうし、私は笑いのツボが浅いので、共演の皆さんを見ていても面白すぎて、きっと笑ってしまいます(笑)。稽古場で初日から慣れていかないといけないですね。

三宅 横山さんも相当、ギャグを背負ってますからね

横山 そうなんですよ! だから、笑わないように、必死で慣れていかないと。

三宅 ギャグは残酷ですよ。目の前で結果出ちゃうから。みんながドカンとウケていても、自分の時はシーンとしたりね。でも、その時は私の責任にしちゃえばいいから。

紅 (小声で)……ダンディ。

 

――(笑)。早くもチームワークがピッタリですね。

三宅 いい間で入ってきたよね、ダンディ(笑)。もう息が合ってきました。東京喜劇は非常にわかりやすくて楽しいお芝居で、僕らも楽しくやっています。でも、今回はちょっと特別な感じがしますね。楽しくてわかりやすくて、とにかく爆笑で最後に感動、というのは変わらないんですが……、やっぱりこれが大事だったんだ、と思える公演にしたい。お客さんと一緒に、そういう公演にしていきたいと思います。

 

――楽しみにしています。本日はありがとうございました!

 

取材・文/宮崎新之

 

<取材協力>

◎三宅裕司
スタイリング:加藤あさみ(Yolken)

◎紅ゆずる
ヘアメイク:hanjee(SINGO)
スタイリング:森本美砂子
衣装:ZADIG&VOLTAIRE

◎横山由依
ヘアメイク:大場聡美
スタイリング:林峻之